keys to the…

 水島はそう言って又私の顔を覗くようにして笑った。
 然し私はまだそれが信じられなかった、息を止めてその快感を味う! 私はそれがとてつもない大嘘のように思われたり、本当かも知れないという気もした、その上十五分以上も息を止めて平気だというのだから――
 水島は私の信じられないような様子を見てか、子供にでもいうように、
『君は嘘だと思うんだね、そりゃ誰だってすぐには信じられないだろうさ。嘘か本当か今実験して見様じゃないか』
 私はぼんやりしていたが水島はそんなことにお構いなく、
『さあ、時計でも見てくれ給え』

 それから、瞬きも忘れて見入っていると、また船室から一人が現われた、こんどは男だった。しかし矢張り日本人である。さっき圭さんが、外人の船だろうと、いったのは、どうやら出まかせらしかった。
(どんな男か……?)
 ピントをそちらに向けた中野は、こんどこそ
「あっ……」
 と驚きを洩らしてしまったのだ。
「なんだい中野さん……」
 圭さんにも聞えたと見えて、間伸びのした声をかけて来た。
「うん、いや、何んでもないさ」
 中野は、まるで望遠鏡にぶらさがるような恰好をして見入ったまま、口先きだけの返事をした。
 しかしその実、彼の眼はレンズに喰い入るように押つけられていたのである。

 彼はよくそう思うのであった。けれど夢の中で饒舌であるように、現実では饒舌ではなかった。女の人に対しても口では下手なので、手紙をよく書いた。けれど矢っ張り妙な恥かしさから、彼の書いた手紙には、裏の裏にやっと遣る瀬なさを密めたが、忙しい世の中では表てだけ読んで、ぽんと丸められて仕舞った。
 又女の人と一緒に歩いても、前の日に一生懸命考えた華やかな会話は毛程も使われなかった。そして、彼はただ頷くだけの自分を発見して淋しかった。然しその時は、ただ一緒に歩くだけで充分幸福であるのだが、あとで独りになると、チェッと舌打するのである。